白いシーツに生えた無数の赤い手が、全裸の少女を拘束している。
それだけでも十分異様な光景なのだが、少女の背から生えた氷の肌の女と蛇の群れがさらに異様さを際立てていた。
「テスタメント」
ディズィーが不安そうに自分を呼ぶ声に、思わず戒めを解いてしまいそうになるのをテスタメントは堪えた。
「いや、何だ……その」
白く柔らかな肌をいくつもの赤い手が押さえ込んでいる光景は、思った以上に刺激的だ。火照った肌に青い髪が纏わりつく様も、頬を高潮させ潤んだ目で見上げてくる姿も、まだ触れてもいないのにひくひく震えて彼を待ち望んで蜜を溢れさせる彼女自身も、普段のあどけなさとのギャップが相まって一層彼の欲情を煽り立てる。
「あの……もしかして『お仕置き』なんですか?」
太腿を撫でられ小さく息を吐きながら、上目遣いに訊ねてくる。
「どこでそんな言葉を……」
「エイプリルが貸してくれたコミック誌に……、あっ」
慌てて口元を押さえようとする彼女だが、両腕も赤い手に押さえ込まれているので真っ赤になってうつむくだけだった。
こんな関係になっておいて今更感が漂うのは承知だが、テスタメントはくらくらする頭に手を当てる。
いや、ここで一々引いていてはいけない。
「そんな本を読んでいたとはな」
咳払いして向き直ると、無防備に晒された花芽を軽く弾く。
「きゃぅ!」
舌や唇で与えられるのとはまた違った感触に、ディズィーは身を仰け反らせた。
「まだほとんど何もしていないのにこんなに溢れさせて、本当にお仕置きが必要だな」
恨み節のように聞こえると自嘲気味に考えながら、テスタメントはふっくらした耳朶を甘噛みながら囁く。同時に、彼女を押さえつけていた赤い手が滑らかな肌の上を蠢き始めた。
「特にネクロ、ウンディーネ……お前たちにも日頃から世話になっているし」
凄艶とでも言うべき赤い目が、ディズィーの分身たちを見つめる。
「あ、二人とも待って……ずるいっ、やぁんっ」
素早く本体の中へ逃げ込む分身へ抗議するものの、全身へ加えられた強烈な刺激に中断させられる。首筋をテスタメントの舌が這い、過敏になった肌の上を無数の赤い手が蠢き、あるいは豊満な乳房を揉みしだき、硬く勃ち上がった乳首を指で挟み込まれ弄られ、内腿を撫で回される責めにディズィーはただ啼くばかりだった。
「あ、ぁ……テスタメント、駄目です、何か、変……」
お仕置きとは言うものの、テスタメントはいつもと変わらない優しい愛撫をしてくれるし、肌を蠢く無数の手も激しくはあるが彼女を痛めつけるようなことはせず、ただただ彼女を高みへと導くのみ。
それでも、全身を同時に弄られるという――これは普段テスタメントがされていることなのだが――強烈な刺激に、ディズィーは軽い恐怖を覚えた。
「駄目だと言って止めてしまってはお仕置きの意味がないだろう?」
耳元に軽く息を吹きかけ、舌を穴に侵入させながら空いた手は彼女の黒い尾を撫で擦る。つけ根の裏筋も彼女の弱点だというのは既に承知だ。
もっと見たい。もっと彼女が乱れ、淫らに自分を求める様を見たいと思わずにはいられない。
「お願いです……もぅ、駄目……!」
いやいやと首を振るディズィーだが、無意識に腰が揺れている。垂れ流すように蜜を溢れさせ受け入れるモノを待つ彼女自身の周りを、わざとらしく赤い指が執拗になぞる。
「テスタメントぉ……っ」
不意に責めが止む。安堵しながら不思議そうに見上げるディズィーの乱れ髪を、テスタメントの長い指が梳いた。
「分かった。それではこうしよう。お前が読んだ本の内容はどんなものだったのか話してみろ」
潤んだ目でそんな風に呼ばれてしまってはどうにも敵わない。せめてどんな内容だったのか彼女自身の口から言わせてやりたいのだが、聞いてしまったらやはり自分を抑えきれないだろうという予感がした。
「えっ?」
薄紅色に染まっていたディズィーの肌が、さらに赤みを増す。
「口にできない内容の本を読んでいたのか? やはりお仕置きが必要だな」
先細った尾の先端がテスタメントの口に含まれる。
「ひぁあっ!? は……ああっ」
ぬるりとした感触に包まれ、そこから体の中心に向けて新たな快感が送り込まれる。緩慢に与えられるそれは拷問にも似ていた。
くちゅくちゅと卑猥な音を立て熱心にしゃぶる様が、先ほどまで彼女がテスタメントにしていたことを思い出させる。
自分もあんな風に彼のモノを咥えていたのかと思うと、羞恥とまた新たな快感を呼び覚ます。
あんな風に顔を上気させ、舌と唇を使って彼が快楽に顔を歪ませる姿を楽しんでいたのか。
「あ……?」
再び中断される『お仕置き』に、ディズィーは瞬きを繰り返す。
「止めだ。楽しんでいたら意味がない」
「そんな……楽しんでなんか」
語尾が弱々しくなるのを意識せずにいられない。そういえば件の本にもそんなやり取りがあった。
「本当に?」
彼の視線の先にあったのは、既に手の戒めを解いたにも拘らず四肢を投げ出したまま、あられもない姿でテスタメントの責めを待つ少女の姿。無防備に曝け出された秘部を隠すこともせず、切なげに息を吐く度に胸が上下している。
「ほら、シーツまでびしょびしょだ。本当は楽しんでいただろう、ディズィー?」
本当は彼自身の愛液で既にシーツは濡らされていたのだが、それ以上に夥しく溢れたディズィーの蜜が染みを作っている。慌てて脚を閉じようとするのを、再び無数の手が伸びてきてそれを許さない。
「言えないような内容ならそれでもいいが、何故そんなものを読む気になったのだ?」
「それは……ぁ、んんっ、だめです……そんな……は、ぁ、あぁ……っ」
困惑と羞恥で首を振るディズィーの姿にテスタメントは目を細め、片手だけ自由にさせてやる。思っていた通り秘所を隠そうと伸ばされるのを掴み、自分の指ごと一気に差し込んだ。
「はぁっ、ああっ…んっ……!」
貪欲に絡みつき、呑み込む肉の襞。蕩けきったその中で一緒に指を揺り動かしている内、次第に自分から動きを激しくしていく。テスタメントが指を抜いても一向に気づく様子はなく、それどころか挿入する指を増やし手馴れた仕草で中を掻き回す。
「そんなものを読みながら、こうして自分を慰めていたのか。本当に悪い子だ」
「見ないでください……っ、おねが、あ……だめ……っ」
必死に身をくねらせて逃れようとするが、それすらテスタメントを誘う様にしか見えない。彼の前で自らを慰めながら、張り詰めた乳房をこねるように弄られ、内腿と黒い尾に愛液を丁寧に塗りたくられ、ディズィーにはもう何が何だか分からない状態になってしまっていた。
「否定はしないのだな」
苦笑するテスタメントに、ディズィーは切なげな息を吐きながら哀願を繰り返す。
「やぁ……っ、おねがい……テスタメント……っ、もぅ……!」
仕方ないな、と体裁だけ繕いながら腰を抱き、蜜で塗れた指を引き抜き一本一本を丁寧に舐め取る。それにすら過敏な反応を示すディズィーの頬に軽く口づけ、ゆっくり彼女の中に自身を埋めた。
「ふあ……っ、あぁ……」
長時間焦らしに焦らされた末与えられたモノに、安堵の入り混じった吐息が漏れる。自由になった指をテスタメントのそれと絡ませ、彼に貫かれながら無数の赤い手に全身を弄られるディズィーの顔は、隠し切れない悦びで満たされていた。
幾度となく果てて力なく横たわるディズィーの体に、テスタメントが労うように口づけを繰り返す。
「テスタメント……も、だめ……また……」
「また?」
意地悪く聞き返すと泣きそうな顔をしたので、慌てて彼は後戯を中断した。
――やはりやり過ぎたか。
「私が悪かった、もうしない。だからそんな顔をしないでくれ」
情けないとは思うのだが、彼女がそんな顔をするだけで胸が締めつけられるように痛むのだ。
「……いえ、あの」
テスタメントが目に見えてうろたえるので、ディズィーの方も焦らずにはいられない。
「今日のような真似はもうしないから、だから頼む」
おろおろしきった顔で、今にも額を擦りつけんばかりに拝むテスタメントの姿に、不意にディズィーの顔が緩んだ。
「テスタメントもそんな顔しないでください……あの」
困ったように微笑んで彼の顔を上げさせると、耳元で小さく囁く。
「とっても、気持ちよかったです」
肩口に顔を埋めぎゅっとしがみつくと、力強く抱き返された。
――どんな風に抱かれても彼への想いは変わらない。彼も私がどんな風に迫ってきても全て受け入れてくれる。この先も、ずっと。
「だから今度は私がテスタメントを気持ちよくしてあげますね」
「……は?」
ディズィーを抱きしめたままのテスタメントの体が強張る。気づいた時にはもう遅く、華奢ながらもギアの中でもトップクラスの怪力を持つ彼女の腕に捕らわれ、再び現れたネクロとウンディーネが彼の体に纏わりついていた。
「お前……もう、体が」
「はい、だからその分ネクロとウンディーネが頑張ってくれるって」
にっこり微笑む顔は無邪気そのもの。純粋にテスタメントを悦ばせることしか頭にない。
「いや……私は、わりと満足したので……遠慮……」
「でも、やっぱりテスタメントも女の人の部分があるからちゃんとこっちも気持ちよくならないとだと思うんです。ね、ネクロ」
「だから遠慮すると……っ、あ、ああぁあ……っ!」
ここは魔の森。異形の恋人達の聖域。終わることのない嬌声が、いつまでも響き渡っていた。
言い訳
物凄く久しぶりに書いた続きです。リハビリを兼ねてるのでちょっと文章がおかしいかもしれません。
たまには鬼畜攻テスタもやってみようと思ったのですが、私が書くとどうしてもこういうオチに……